
ニュース&コラム
家族信託の受託者に不満がある場合、解任できる?
コラム
家族信託もぐんと普及して10年程度。そろそろトラブルのご相談も出てきております。
最近、立て続けに似たようなご相談を受けましたので、ご紹介します。
受託者の仕事ぶりに納得がいかない、というトラブルが増えている
お母さんの財産を長女さんに信託したけれども、長女さんの財産管理がずさんなうえに、自分のためにお金を使っているような面もあり、信託監督人になっている次女さんとしては受託者を交代したいというものです。
受託者を交代するには、お母さんと長女さんで信託契約の変更をしなければなりません。
しかし、お母さんは既に認知症を発症していて契約変更できないうえに、長女さんも納得せず、ケンカになってしまいました。
そこで、次女さんとしては、受託者である長女さんを解任できないかと考えます。
受託者の解任はできるのか?
基本的には信託契約の内容によりますが、受益者抜きで受託者を解任できる作り込みにはしないのが普通です。
よって、一般的には裁判所に受託者解任の申し立てをすることになります。
受託者が任務に違反し、信託財産に著しい損害を与えた場合など、重大な事由があるときは、委託者または受益者の申立てにより、裁判所が受託者を解任することができます(信託法58条第4項)。
こちら一読しておわかりのとおり、ハードルがけっこう高く設定されています。
受託者が任務に違反し、信託財産に著しい損害を与えているということを、申立人サイドで主張・立証しなければなりません。
信託に関する資料はほとんど受託者の長女さんサイドにあり、信託監督人とはいえケンカしている次女さんにはなかなか開示しないでしょうから、これは至難の業です。
まずは検査役選任の申し立て
受託者解任申し立ての前段階として、本当に受託者がちゃんと仕事をしていないのかどうか、第三者の目でチェックしてもらう制度が検査役です。
受託者の信託事務処理に不正や重大な違反が疑われる場合に、受益者が裁判所に対して申立てを行います(信託法46条)。
受益者が申し立てる必要がありますが、信託監督人であれば受益者に変わって申し立てることができます(ただし、信託監督人が複数いる場合は、全員から申し立てる必要があります。)。
裁判所は、相手方である受託者の言い分も聞いたうえで、検査役を選任します。
通常は、弁護士などの専門家が選ばれることになるでしょう。
この検査役が調査した結果、受託者のしごとに不正や重大な違反があると認められれば、次の段階として受託者解任の申し立てに移ることができるでしょう。
そもそも、このようなことが起こらないようにすることが大事
このようなご相談の背景には、実は家族の信託への理解不足があります。
信託では、受託者の権限が大きく、受託者以外の家族は実効力のある手段が限られています。
信託の組成時にこれをしっかり理解していないと、仲の良いときはよいのですが、一旦ケンカになってしまえば、せっかく組成した信託を根本から揺るがすトラブルになります。
家族信託の組成をサポートする専門家は、その辺りの説明もしっかりする必要があるでしょう。