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受益者(委託者)が認知症になったあとでも家族信託の変更をする方法はある?
コラム
最近、家族信託契約、特に5年以上前に組成したものを変更したいというご相談が増えています。
変更すること自体は可能ですし、その方法や注意事項については過去の記事にも詳しく書いています。
さて、家族信託の変更は、基本的には受益者(=委託者)と受託者の合意によるため、受益者が認知症になってしまったあとは、受託者が単独で変更できる極めて軽微な変更しかできなくなります。
それでもなお変更をしたいというご相談がありましたのでご紹介します。
ご相談内容
受益者であるお父さんの生活の利便性やキャッシュフロー、相続税の対策の観点から信託した建物を建て替えるにあたり、ローンを組む銀行から受益権への質権設定を認める変更をしてほしいと言われたそうです。
家族信託では、受益者がもつ受益権に第三者の権利が絡むと色々とややこしくなるので、受益権の譲渡や質入れを禁止していることが多いと思います。
本件もそのような設計になっていましたが、お金を借りる銀行から言われてしまってはしかたありません。
しかし、受益者と受託者である息子さんとで信託を変更しようにも、お父さんは既に認知症になってしまっており、信託変更の合意ができないので、なんとかならないか、とのご相談でした。
受益者代理人による変更
そこで案が出たのが、受益者代理人(本信託では、必要があれば受益者代理人を選べるようになっていました。)を選び、受益者代理人と受託者との合意で信託変更できないかというものです。
受益者代理人は、受益者が有するほとんどの権利義務を有しますので、可能性はあるでしょう。
合意で変更できる内容なのか?
本信託では、「信託の目的に反しないことが明らかな場合は」受益者と受託者で変更できるという設計になっていました。
受益権に質権を設定できるようにする変更は、信託の目的に適合しているのでしょうか?
本信託には、多くの家族信託同様、受益者の福祉を確保し、生涯に渡って家族とともに安心して暮らせるようにすることが目的の一つに入っています。
また、資産の円滑な承継も目的に入っています。
今回の建て替えの理由は先述のとおりであり、そのためにローンを組む手続の一貫としての信託変更ですので、信託の目的に反しないことが明らかと言えるのではないでしょうか。
受益者代理人として誰を選ぶか?
本信託では、受託者が受益者代理人を選べるようになっていました。
受託者が自身の監督者としての一面ももつ受益者代理人を選ぶという設計自体、利益相反の観点から言えば好ましくはありません。
しかし、家族信託では往々にしてしかたがない場合も多いでしょう。
むしろ、委託者・受益者は、信頼して受託者に託すわけですから、利益相反の構造自体は理解したうえで、別の人よりもむしろ受託者に選んでほしいと考えることも多く、人情としてはある程度うなずける面もあります。
しかし、実際に誰を選ぶかというところは、やはり慎重になった方がよいと思います。
今回は、本信託に関与しておらず、利害関係をもたない受託者のお姉さんに受益者代理人となってもらうことになりました。
余談
本件では信託の変更ができましたが、実際に受益権に質権を設定するには、受益者であるお父さんと銀行とで質権設定契約をしなければなりません。
しかし、お父さんは認知症になっています。
その後どうするのか…銀行はどのように考えているのでしょうか…
変更が難しいと思われるケース
本件は、実際に公証人のチェックも通って公正証書による変更までこぎつけましたが、難しいと思われるケースのご相談もありました。
委託者・受益者がお父さん、二次受益者がお母さんとなっているケースで、お父さんが認知症になったあと、相続税の観点から、二次受益者をお母さんとお子さんに変更したいというもの。
二次受益者を誰にするかというのは、すなわち自身の財産を誰に相続させるかという話です。
これを、先ほどの例と同じように受益者代理人を選び、お父さん抜きで変えてしまえるとすれば、それはやりすぎと言わざるをえないように思います。
(遺言を本人の承諾なく変更できるとすれば…と考えるとわかりやすいでしょう。)