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家族信託前夜、真夜中の電話~ハキハキとした返事の裏側にあったもの~

コラム

先日お手伝いをさせていただいた家族信託のご依頼で、あらためて「専門家としてのあり方」を深く考えさせられる出来事がありました。
今日はそのことについて少し綴ってみたいと思います。


公証役場での「凛とした」お父様

その日は、ご家族で準備を進めてきた信託契約のいよいよ大詰め。
公証役場での公正証書作成の日でした。

委託者(財産を預ける方)であるお父様は、当日、実にお見事な立ち居振る舞いでした。
公証人の先生からの問いかけにもとハキハキと答えられ、契約の内容について鋭い質問をされる場面も。

一通りの説明が終わると、お父様は納得された様子で、力強い筆致で信託契約書に署名をされました。
隣で見守っていた受託者(財産を管理する方)である娘さんも、ホッとされた表情を浮かべていらっしゃいました。

帰り際に明かされた「本音」

無事に手続きを終え、帰り支度をしているときです。
娘さんがそっと私に教えてくれました。

「実は……昨日の夜中3時に父から電話があったんです。『明日はどうしても公証役場に行きたくない、行かない』って」

私はそのお話を聞いて、ハッとしました。
あんなにシャキッと、前向きに手続きに臨まれていたお父様が、実は前夜、そのような不安や葛藤の中にいたのだと。

「敷居の高さ」という重圧

私たち専門家にとって、公証役場や司法書士事務所は日常の風景です。
しかし、一般の方、特にご高齢の方にとっては全く違います。

  • 重々しい雰囲気: 「役場」という名前、そして厳格な公証人の存在。
  • 難解な法律用語: 家族信託という、聞き慣れない、かつ人生の晩年を左右する重たい決断。
  • 「老い」との向き合い: 自分の財産を子に託すという行為は、ご本人にとって「一線を退く」ような寂しさを伴うこともあります。

これらが重なり、どれほど心理的な負担になっていたか。
「やっぱり行きたくない」という夜中の電話は、お父様の精一杯の抵抗であり、不安の現れだったのでしょう。

気持ちに寄り添う「伴走者」として

今回、お父様が最終的に公証役場へ足を運ばれ、立派に立ち振る舞われたのは、何より娘さんとの信頼関係があったからでしょう。
ですが、我々専門家もまた、単に「法的に不備のない書類を作る」だけで満足してはいけないと痛感しました。

事前にどれだけ不安を取り除けるか。
「難しい話」をどれだけ「温かい未来の話」に翻訳して伝えられるか。
そして、当日のお父様の頑張りを、どれだけ敬意を持ってサポートできるか。

ご高齢の方の繊細な気持ちを汲み取り、「この人に任せてよかった」と心から安心していただけるような、丁寧で温度感のある対応。
それこそが、法律知識以上に大切にすべきことなのだと、あらためて背筋が伸びる思いでした。これからも、一つひとつのご家族の物語に、誠実に寄り添ってまいります。

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