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家族信託を検討する前に、銀行の「代理人制度」はご存じですか?
コラム
家族信託について相談したいとおっしゃる方の中で、比較的多いのが、「親が高齢になってきたので、将来お金の管理をどうしようか考えていて…」というご相談。
つまり、金銭の管理を目的とした信託のニーズです。
ただ、そうしたお話を伺うなかで、私が強く感じるのは、「本当に家族信託が必要なのか、ほかの選択肢は検討されたのか?」ということです。
というのも、先日いらっしゃった方もまさにそうでした。
家族信託を扱う業者さんや複数の司法書士事務所に相談したものの、家族信託の説明しかされなかったようです。
しかしその方が希望されていたのは「金銭の管理」だけ。
つまり、不動産や事業承継といった複雑な要素は含まれておらず、もっとシンプルに対応できるケースでした。
こうした場合、実は「銀行の代理人制度」を使うことで、家族信託を組まなくても目的が達成できる可能性があるのです。
たとえば、ある都市銀行では、「任意代理人届」を提出しておけば、将来ご本人が認知症などで判断能力を失った場合にも、診断書の提出などを条件に、家族が預金を引き出すことができるようになっています。
もちろん、すべての銀行で一律というわけではありませんが、代理人制度は比較的広く整備されていて、利用にあたっては家族信託に比べて手続きが簡便で、費用もぐっと抑えられます。
問題なのは、こうした制度の存在自体が、あまり知られていないということ。
そして、残念ながら一部の信託業者や専門職の中には、「案件がほしいからか、代理人制度の案内はされなかった」という実例もあります。
私としては、非常に残念です。
家族信託はもちろん有用な制度ですし、相続対策や不動産管理など、必要な場面では積極的に活用すべきだと思います。
しかし、金銭の管理だけが目的であれば、まずは他の制度も含めて比較していただきたい。
それが、ご本人にもご家族にも負担の少ない選択につながるからです。
制度は「知っているかどうか」で、人生設計が大きく変わります。
だからこそ、私たち専門職の役割は、選択肢をしっかり示すこと。
そして、ご本人にとって一番納得できる方法を一緒に考えることだと思っています。
金銭のみの家族信託を検討されている方は、ぜひ一度、銀行の「代理人制度」も視野に入れてみてください。