
ニュース&コラム
遺言書に添えられた1通の手紙が家族を争いから守った日
コラム
先日、仲間の専門家からうかがったお話のご紹介です。
東京で会社を経営しているAさんのご実家のお話。
ご実家は福井県にあり、幼少期を過ごした家も今も残っています。
地元にはお姉様が暮らし、日々ご両親を支えていました。
そんな中、お父様ががんを患い、入退院を繰り返す状況に。
財産は莫大ではないものの、大きな家と土地、そして多少の現預金や美術品がありました。
お姉様は地元で介護を続け、弟であるAさんは東京で家庭をもっています。
Aさんは、仲間の専門家から、遺言を書いておいてもらった方がよいのでは、というアドバイスをもらい、実際に福井へ帰った際、お父様とお話をされたそうです。
お父様の行動
お父様は、Aさんの話を聞き、退院のタイミングで筆ペンを手に取って、財産を一つひとつ書き出されました。
壺や掛け軸、現預金まで──宝物だと思う品をすべて。
それは単なる財産目録ではなく、便箋には、財産ごとの思い出や価値観、そして家族への想いが綴られていました。
その後、地元の司法書士が関与し、正式な遺言として整備されたそうです。
遺言の内容とAさんの懸念
やがてお父様が亡くなり、遺言書をひらくときがきました。
Aさんもお姉さまも、遺言書の中に何が書かれているのかは知りません。
遺言の骨子は次のとおりでした。
家屋敷と墓:長男であるAさんが継ぐ
壺や掛け軸、現預金:介護を続けたお姉様へ渡す
お父様の意思は明確でした。「家を守る役割は弟に」「介護の労に報いる品や現金は姉に」。
しかし、Aさんが初めて内容を見たとき、胸に小さな不安がよぎりました。
──金額に換算すれば、お姉様の取り分のほうがはるかに少ない。
もしかすると、遺産分割を巡って不満や争いが起こるのではないか。
Aさんとしても、家を引き継ぐことは決して「得」ではなく、墓守や維持管理の負担も伴います。
けれども、数字だけを見れば、そうした背景は伝わりにくいものです。
添えられた手紙に込められた想い
遺言には、お父様直筆の手紙が添えられていました。
そこには次のような内容が記されていました。
介護をしてくれたお姉様への感謝
地元に残ったお姉さまの学費や孫への援助を惜しまずしてきた経緯
弟は自ら大阪の大学へ進学したため援助額は最小限だったが、それは愛情の差ではないこと
家屋敷を弟に託すのは、墓守の役割を任せるためであること
何より、孫の顔を見せてくれたことが、自分にとってかけがえのない喜びであったこと
お姉さまに対しては、「あなたが地元に残ってくれたおかげで、孫の成長を間近で見られた。何よりの親孝行だった」とも綴られていたそうです。
数字だけでは伝わらない想いが、ここには詰まっていました。
開封の場面
遺言書の開封の場面では、司法書士が遺言と一緒にこのお手紙も読み上げました。
それを聞いていたお姉様は涙をこぼされていたそうです。
結果的に、Aさんが危惧していた相続争いは起こらず、相続手続きは滞りなく進みました。
遺言と共に残された手紙が、家族の心をつなぎとめた瞬間だったのかもしれません。
専門家としての学び
このお話を聞いて、私も専門家として、大変な学びを得た気がしました。
遺言は単なる「財産分配の指示書」ではありません。
なぜそう分けるのか、その理由や想いを「付言」や手紙で伝えることは、法的効力はなくても、家族にとっては大きな意味があります。
法律は権利を守りますが、家族の気持ちまでは守れません。
最後に残すべきは、財産と同じくらい大切な“想い”です。
今回の福井のお父様の事例は、そのことを強く示すものでした。