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経営のバトンを見届けて~事業承継~

コラム

司法書士として企業と関わることは多いのですが、経営の意思決定の場——取締役会に同席することは、そう多くありません。
先日、その貴重な機会をいただきました。
議題は社長交代。経営のバトンが正式に渡される瞬間でした。

会議室には、本日の話を知っている方と知らない方がおて、静かな緊張が漂っていました。
長年、会社を導いてきた社長が穏やかに口を開き、思いを語り始めます。

20年近く続けてきた経営を振り返り、次世代へのバトンを渡す時期が来たと判断、テクノロジーの変化、顧客の変化を見据え、今後10年・20年を支える新体制を築く必要を感じたとのことです。
「納得できる人物」「安心して任せられる」と後継者を指名し、「昭和的で強権的だったが、よくついてきてくれた」と感謝を述べ、「みんなだったらできる。新体制を楽しみにしている」と未来への期待で締めくくられました。
その声には不思議な温かさがあり、背後に積み重ねた年月の重みが感じられました。
長くともに歩んできた役員の皆さんがうなずく姿が印象に残ります。

引き継ぐ側の新社長は、現場の空気を知り尽くした実務派です。
「理念は変えず、時代に合わせて組織を進化させたい」と静かに語りました。
その言葉には、誠実な責任感が滲んでいました。

私の役割は、法務的な観点から意見を述べつつ、議論を客観的に見守ること。
しかし、その場で交わされる言葉には、条文では測れない人間の情がありました。
立場や世代を超えて、互いを信頼し、未来を託す——その静かなやり取りに、組織の成熟を感じました。

印象的だったのは、前社長が「会長として二年間だけ支える」と述べた場面です。
潔く身を引きつつ、必要なときはそっと支えるという姿勢。
そこには、経営という営みの“終わり方の美学”がありました。

新社長の締めくくりの言葉が、今も心に残っています。
「創業の原点を思い出しながら、もう一度総業する“第二創業”のつもりでやっていく」
引き継ぐとは、過去を終わらせることではなく、想いを継ぐことなのだと感じました。

専門家として、その場に立ち会えたことを光栄に思います。
人が人に責任を渡すとき、そこには理屈を超えた温度がある。
その温度こそが、組織を動かし、未来へつないでいく力なのだと思いました。

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