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実務の盲点!家族信託の残余財産帰属権利者の「一部」が放棄したらどうなる?
コラム
家族信託の実務に携わっていると、時に法律の行間にある「答えのない問い」に突き当たることがあります。
今回は、そんな実務家泣かせのテーマである「残余財産帰属権利者の一部放棄」について。
信託が終了した際、最後に残った財産を誰が受け取るか。
通常は信託契約の中で「残余財産帰属権利者」が定められています。
しかし、複数いる残余財産帰属権利者のうちの一人が、感情的あるいは税務的な事情によって権利を放棄した場合、その浮いた財産は一体どこへ行くのでしょうか。
先日、そんな相談を受けました。
まず、入り口として「放棄ができるか」という点。
これについては、信託法183条3項において特に制限がなされていないため、法的には可能であると考えられます。
(信託契約の当事者である当初委託者、当初受託者は放棄できません。)
問題は、その後の行き先です。
信託法182条2項を紐解いてみると、そこには「帰属権利者の指定がない場合、または帰属権利者の『すべて』が放棄した場合には、委託者またはその相続人に帰属するものとみなす」という趣旨の規定があります。
お気づきのとおり、条文では「すべて」が放棄した場合のことは書かれていますが、本件のように「一部」が放棄した場合の規定がすっぽりと抜け落ちているのです。
私は、この答えを探すべく、書店を巡って片っ端から法律書・実務書を開きました。
しかし、驚くべきことに、明確な回答を示しているものはおろか、この論点について触れているものさえ見つかりませんでした。
経験豊富な仲間の実務家にきいてみたところ、過去に経験があり、その時は全員に放棄してもらって問題なく183条2項が適用できる状態を作ったとのことでした。
なるほど素晴らしいアイデアですが、本件では帰属権利者の一人が当初受託者のため、全員で放棄はできませんでした。
ここからは、法律をどう読み解くかという「解釈」の領域になります。
一つ目の案は、一部が放棄した以上、その部分については「帰属権利者の指定がない状態」と同じであると捉える考え方です。
この場合、信託法182条2項前段を準用し、その持分相当分は「委託者またはその相続人」に帰属することになります。
二つ目の案は、特に物件ごとに帰属先を細かく指定しているようなケースで検討しやすいものですが、信託法182条3項を適用する方法です。
帰属先が定まらないときの最終的な受け皿として「清算受託者」に帰属させるという構成も、理論上は否定しきれません。
いずれにせよ、これらはあくまで学説や実務上の推論に過ぎません。
法律に明文がなく、先例も見当たらない以上、最終的な判断は司法の場に委ねられることになります。
現段階で「これが正解です」と断言できる実務家は…もしいらっしゃればご連絡いただけると幸いです。
仮にどちらかのスタンスをとるにしても、安易な判断で進めるのは危険です。
特に不動産の登記も伴うのであれば、事前に法務局に対して照会をかけ、見解を仰いだ方がよいと思われます。
信託という制度は柔軟であるがゆえに、こうした「解釈の空白」が顔を覗かせることがあります。
実務家が、一つずつ実務の杭を打っていく。
地道ではありますが、それがお客様の財産を守ることにつながると信じています。