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「物忘れ=アウト」ではない?司法書士が教える「判断能力」の基準

コラム

日々の実務の中で、ご家族から最も多くいただくご相談の一つが「判断能力」についてです。
特に家族信託を検討される際、ご家族は切実な表情でおっしゃいます。

「最近、物忘れがひどくて……」
「少し言動がおかしい時があるのですが、信託はできるでしょうか?」
「具体的に、どの程度ならOKで、どの程度だとアウトなのですか?」

今回は、この「境界線」について、私自身の経験に基づいたリアルな基準をお話ししたいと思います。

私たちも「医者」ではありません

まず前提として、司法書士も公証人も医師ではありません。
医学的な診断を下すことは不可能です。
家族信託の場合、実務上は「専門家(司法書士)との面談時」と「公正証書作成時」の2回、意思確認の機会があります。
私が面談で何をみているのか。それは、細かい契約条項の理解ではありません。

私が見ている「たった一つのポイント」

私の基準は、極めてシンプルです。
「自分の判断能力が衰えることに備えて、信頼できる受託者に財産を託したいという意思が、対話の中から読み取れるか」
個人的には、この一点に尽きると考えています。

自分の名前や住所、年齢を正確に言えるかどうかは、確認はしますが、実務の現場では実はそこまで重要視していません。
住所を少し間違えても、ご自身の置かれた状況を理解できていれば問題ないからです。
また、「字が書けない(代筆が必要)」という点も、判断能力とは別問題ですので、ご安心ください。

私が最も重視するのは、「視線」です。

言葉では頷いていても、どこか焦点が合っていない。
ぼーっとしていて、まるで夢の中にいるような独特の空気感。
こちらが投げかけた質問に対して、心ここにあらずといった状態を感じたときは、残念ながら「今は難しいですね」とお断りする決断をします。

公証人の判断基準と「現場の空気感」

次に、公正証書を作成する公証人の先生方はどう見ているのか。
あくまで私の印象ですが、公証人の確認は、司法書士ほど厳格ではないケースも見受けられます。
これは決して適当だという意味ではありません。
「ここまで司法書士がしっかり準備してきたのだから」という信頼関係はもちろん、「せっかく家族でここまで積み上げてきたものを、自分が壊したくない」という、ある種の「優しさ」のようなバイアスが働いているのかもしれません。
基本的には、私たち司法書士と同じような視点で見てらっしゃると感じます。

遺言と家族信託、どちらが難しい?

実は、同じ公正証書でも「遺言」の方がハードルが高いことをご存知でしょうか。
家族信託は、家族間での「契約」です。多少の不備があっても家族内で調整の余地があります。
一方で遺言は、 本人一人の意思による「単独行為」です。
遺言の場合、公証人は「誰に、どの財産を継がせるか」という内容を、本人の口から直接語ってもらう(口授)ことを重視します。
信託が基本的には契約書の読み上げ確認でできるのと比べると、遺言の方がより高い判断能力を求められるのが実情です。

最後に

「うちの親はもう無理かも……」と諦める前に、まずは一度お会いさせてください。
ご本人とお話ししてみると、案外「思いの芯」がしっかり残っていることは多いものです。
その「芯」さえあれば、私たちは法的な形にするお手伝いができます。

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