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オレの目の黒いうちは、オレがやる!を家族信託で叶える方法はあるのか?

コラム

認知症対策として家族信託を検討される際、特に会社経営やアパート経営に携わっているお客様から、共通して受けるご相談があります。

「信託の仕組みや必要性は理解している。ただ、実際に判断能力が衰えるまでは、受託者にすべてを委ねるのではなく、自分も経営に関与し続けたい」

長年、ご自身の力で事業を支えてこられた方にとって、これは非常に自然で、かつ切実な思いです。
この「現役感」を維持しつつ、万が一の事態に備えるにはどのような構成が望ましいのか。実務的な視点から検討してみたいと思います。


指図権者の設定とその法的性質

まず検討に挙がるのが、「指図権者」の設定です。
これは、受託者に対して財産の管理運用に関する指図を出す権限を持つ人のことです。
委託者であるご本人を指図権者に指定しておけば、認知症になるまではご自身の意思を事業に反映させることができます。

ただし、ここで留意すべきは、指図権者の法的立ち位置の曖昧さです。
信託法には指図権者に関する直接の規定がなく、商事信託を前提とした信託業法に定めがあるのみです。
そのため、家族信託においては、信託条項の中でその責任や権限を極めて精緻に規定しておく必要があります。

将来、親族間などで争いが生じた際、指図権者の責任をどう解釈するか。
判例の蓄積も十分ではないため、実務家の中にはその多用を控えるべきとの慎重な意見(日本加除出版「家族信託契約」遠藤英嗣著など)もあります。

権限失効のタイミングをどう計るか

指図権を設ける場合、最大の課題は「いつ、その権限を消滅させるか」という点にあります。
認知症のリスクに備える以上、ご本人の判断能力が低下した際には指図権を失効させる必要がありますが、この「条件(解除条件)」の定め方が非常に難しいのです。

認知症による判断能力の低下は、多くの場合、グラデーションのように緩やかに進行します。
例えば「認知症になったとき」という抽象的な表現では、客観的な判定ができません(実務上は「後見開始相当の医師の診断書が出たとき」のような定め方をすることもあります。)。
かといって「後見開始の審判が確定したとき」とすれば明確ではありますが、そもそも後見制度の利用を避けたいから信託したいという方が多く、本末転倒になりかねません。


受益者代理人を介した合意形成の仕組み

そこで、客観性と柔軟性を両立させる一つの手法として、「受益者代理人」の活用が考えられます。

例えば、受益者代理人をあらかじめ選任しておき、「受託者と受益者代理人が書面で合意したとき」に指図権が失効するという条項を設けます。
受託者一人の判断で権限を取り上げることは、恣意的な運用を招く恐れがあります。
そこで、受益者の利益を守る立場である受益者代理人を関与させ、両者の合意を条件とすることで、失効のタイミングを明確にするというアプローチです。

この方法をとる場合でも、ご本人の判断能力があるうちは、指図権者としての権利や、信託条項に基づく受益者としての権利を妨げられることはありません。

完璧な条項よりも、許容できるリスクの選択

もちろん、どのような構成を採ったとしても、実務上「完璧」と言い切れるものは稀です。
ご本人の意思を尊重しすぎれば、将来の不透明なリスクが残り、逆に安全性を突き詰めれば、ご本人の現役時代の自由度が損なわれる。

最終的には、ご自身がどこまでリスクを許容できるか、そして誰を信じて託すか、という哲学的な判断に帰着します。
私たち実務家ができることは、その「割り切れなさ」に寄り添い、少しでも納得感のある着地点を見つけるお手伝いをすることだと考えています。

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