News
News

ニュース&コラム

節税を目的にした民事信託(家族信託)は可能なのか?

コラム

最近、認知症・資産承継対策として爆発的に広まっている民事信託。

信託の仕組みを使った新しいスキームもたくさん生まれているようですが、本日は、節税を目的とした民事信託について考えてみます。

民事信託は節税には使えない、というのは私たち専門家の間でも常識になってはいますが、果たして…。

節税を目的にした民事信託の提案

先日、不動産を売買する際の登録免許税不動産取得税の節約のために信託の仕組みを使えないか、とのお問い合わせをいただきました。

Aさんの不動産をBさんへ売る代わりに…

1.誰かテキトーに受託者になってくれる人にお願いして、Aさんと受託者の間で信託契約を結びます。

2.Aさんを委託者・受益者としたうえで、Aさんの受益権をBさんへ移します。

たしかにこの方法だと、Bさんは受益者として所有者と同じように不動産を使えますし、登録免許税は、売買と比べて安くすみます。(信託の設定時に固定資産評価額の0.3%+受益権移転時に1,000円→売買ならば1.5%)

売買ならばかかる不動産取得税もかかりません。

最近このような提案が増えているのだとか。確かに画期的ですが、反面リスクはないのでしょうか?税務ではなく、法務の視点から考えてみます。

「信託する」という合意はあるか?

信託の目的は?

信託法3条1号によると、信託契約とは「(略)一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約」とされています。

では、本件のような信託で、「一定の目的」をどう定めましょうか?

まさか正直に「登録免許税と不動産取得税の節税」とするわけにはいかないでしょうから、テキトーな目的を設定することになるでしょう。

当然、委託するAさんの内心にはない、ウソの目的と言えます。

なお、仮に正直に「登録免許税と不動産取得税の節税」を目的としても、Bさんに受益権を移した時点で信託の目的が達成されますので、信託は終了してしまい(信託法163条1号)、節税にはなりません。

また、本件のような形だけの信託契約でウソの目的を設定し、受託者は「目的達成のために」どんな行為を引き受けたと言えるでしょうか?

目的のない信託契約は無効?

以上から、このような民事信託では、委託者と受託者の間に、信託契約を結ぶ合意があったか、という点があやしいと言えます。

合意のない形だけの契約は原則無効、というのは、専門家でなくてもご存知の方も多いと思います。

例えば、Aが法人で、債権者がたくさんいるような場合、万が一、Aの経営が傾いたときに、Aの債権者からこの信託契約の無効を指摘され、Bが自分で買ったつもりで事実上の所有者として使っていた不動産を、Aの債権の回収にあてられるおそれもあります。

(なお、商事信託では節税目的の信託は広く行われていますが、受託者が信託会社ですので、その商行為性から、信託意志が推定されるのでは?と思っています。)

所有権ではなく、受益権として持つリスク

この信託、どうやって終わらせる?

もう一つ考えられる問題点は、信託の終わらせ方をどうするか?です。

信託はいつか終了させなければなりません。そのとき確定的に不動産を手に入れるのがBさんなら、その段階で登録免許税と不動産取得税がかかるので、この信託の意味はなくなってしまいます。

Bさんが受益者として不動産を使い続け、将来的に使わなくなったときに信託を終了させて別の人へ不動産を移すなら、このスキームは効果があるかもしれません。

所有権>受益権

ただし、その場合でも、Bさんが不動産を使っている間、受託者は依然として所有権登記名義人として強い権限をもっており、基本的には不動産を自由に管理処分できます。

受託者が、Bさんの意に沿わない管理処分をしてしまうことを阻止できるのでしょうか?これができなければ、Bさんの受益権はまったくの無価値になってしまいます。

要するに、不動産を直接支配できる所有権と比べて、受益権は格段に弱い権利だということです。

経済的・税務的には受益者と所有者の利益は同じだけれど、法務的には受益者と所有者の権利は異なります。

節税というメリットの裏には、所有権よりも利益喪失の可能性が大きいというリスクもあると考えられます。

提案時は慎重に

以上、ここに挙げたリスクや例は極端なものであり、実際に紛争になるか、また、紛争になった際に本当にここに挙げたような結末になるかはわかりません。

ただし、このような問題点も含むスキームだとはハッキリ言えると思います。

目先の利益だけでなく、しっかりとした理解のうえで提案していく必要があるでしょう。

top